「金をかけすぎる政治を厳しく監視する」

 

こさいたろうの視点・論点 0013

2017/08/28

 

 

「金をかけすぎる政治を厳しく監視する」

 

 

この夏の山梨県発の全国ニュース。残念ながら、山梨市長の職員不正採用事件を挙げざるを得ません。職員採用試験で市長自らが情実を働かせ、その見返りに金銭を受け取るという極めて古典的な汚職事件。権力を濫用し、一部の者だけが利益を享受する。許されるものではありません。

 

逮捕された市長の自宅からは複数の受験者の名前が記されたメモが見つかっているとのことで、口利きが常態化していた可能性が高いと言わざるを得ません。職員採用にとどまらず、入札、補助金交付など、山梨市政全般にわたり厳しくチェックする必要があります。

 

さらに、市長への贈賄容疑で逮捕されたのは、なんと山梨県内の中学校長とのこと。自らの息子の不正採用を働きかけたのだそうです。教職員も含めた役人と政治の癒着を感じさせます。狭い世界で持ちつ持たれつ。山梨市にとどまらず、山梨県全体のチェックが必要です。

 

それにしても、学校の先生がこんなことをして、子どもたちにどう説明すればいいのでしょうか。子どもたちにとって学校の先生は、特別な大人なはず。口ではきれいごとを言っていても、しょせん大人なんてこんなもの。そんな風に思わせ大人にさせることは、社会の大きな損失。責任は重大です。

 

市長の元妻(偽装離婚も疑われているが)による巨額詐欺容疑による逮捕が、市長自身の不正採用・贈収賄容疑逮捕のきっかけとなりました。詳細は捜査の進展を注視しなければなりませんが、背景には多額の借金を抱えていたことがあるようです。

 

もともとの家業である石材販売業の不振によるところもあるようですが、市長の経歴を見ると、その選挙遍歴が深くかかわっているような気がしてなりません。地方政治に長く関わらせてもらった者として感じる今回の事件の背景を、報道とは違った視点で論考してみたいと思います。

 

逮捕された望月清賢前市長(逮捕後辞職)の政治経歴。1983年、山梨市議に36歳で当選、以降3期。1995年、山梨県議選に出馬、69票差で落選。7年後の2002年、県議補選に当選。2003年、109票差で再選。2007年、87票差で再選。2014年、山梨市長選挙、389票差で当選。

 

望月氏は県議選挑戦以降、壮絶な選挙をしてきたことがわかります。常に僅差で当落が決しています。数十票、数百票。選挙をやっている者からすると、顔が見える票数。あの時あの人たちにもっと強くお願いしていれば当選できたはず、と具体的に省みることのできる数です。

 

初めての県議選に惜敗後、あるいはその挑戦の時から、金がかかる選挙をしてきたのではないかと僕は推察します。報道によると、補欠選挙に出る前くらいから周辺への借金の要請が増えたようです。僅差での落選経験を経て、今一歩金を投入していればという心境に至ったのではないでしょうか。

 

選挙は、金をかけようと思えばいくらでもかけられます。推薦の獲得や票の取りまとめを求めて、違法承知で金を使えば、それは膨れ上がるはずです。家業の不振もあったでしょうが、議員の立場を保持せんがために歯止めが利かなくなった可能性が高いとみています。

 

そして、当選後、権力を使った金の回収をしてきたのではないでしょうか。県議時代もそれなりにできたでしょうが、市長になった直後から、職員採用試験のルールを変更し、恣意的裁量が及ぶ範囲を大幅に拡大したところを見ると、かなり計画的だったと疑わざるを得ません。

 

いずれにしても、今後の捜査の内容や、その後の裁判等において全容が明らかになると思います。まずは、このような犯罪に手を染めた者たちが厳しく問われなければならないのは当然ですが、僕は政治と主権者のあり方についても、課題を投げかけられていると思うのです。

 

「政治に金がかかりすぎる」とよく言われます。ただ、それ以上に「政治に金をかけすぎている」とは言えないでしょうか。自らの当選のために、金をかける。選挙にはかけられる費用の上限はありますが、平時の政治活動にはありません。いくらでもかけられる。青天井です。

 

普段の身なりから事務所の立地、チラシの雰囲気やスタッフの数、政治活動に金をかけているかどうかは結構わかるはず。さらには、違法またはぎりぎりで、金や物を配るような政治家がいれば、それは自分たちだけでなく、あらゆる場所でやっているとみていいと思います。

 

そういう便宜供与を求める有権者がごく一部いるということになりますが、普通に暮らすほとんどの人には無関係です。金をかけすぎる政治家は、権力の座を利用してかけた金を回収しようとする可能性が極めて高い。僕もそんな一反を垣間見てきました。

 

主権者は、金をかけすぎている政治家を、候補者を、厳しく見極める必要があります。そういう人を議員や市長にさせないということです。主権者たる僕たちには、その権利があると同時に、民主主義国家に生きる国民の義務ともいえると思います。

 

逮捕された望月氏を「とんでもない市長だ」と糾弾するのは簡単です。ただ、それにとどまらず、自らの代表者を選ぶにあたって、これまで以上に厳しく見極めることを教えてくれているのではないでしょうか。望月氏は30年近く、山梨市民に選ばれて議員や市長を務めていたのです。

 

情実が蔓延り、金と引き換えに権力が濫用され、一部の者のみが潤う。正直者が馬鹿を見る。そんな社会を子どもたちに譲り渡していってよいのでしょうか。よい訳がありません。今回の事件を通じて、僕たちは改めて大人の責任を深く見つめなおさなければならないと思います。

※ 今号は、全文掲載させて頂きました

 

農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)

 

 

 

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