こさいたろうの視点・論点 0052
2018/06/10
すべて人力の除草作業で思ったこと
この10日ほど、田んぼとコンピュータにつきっきりでした。本稿にも全く手が付けられる状況でなくなってしまい、一週抜けてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。何卒お許し賜りますようお願い致します。世の情報にすっかり疎くなってしまった10日間。まずは、田んぼの作業から感じたことを書きたいと思います。
5月24日に田植えをしたのですが、細かい問題が重なり、その後の除草作業に機械を使うのが困難となってしまいました。そのため、自らの手で株まわりの泥をかき回すという作業を全面で行いました。一反に満たない小さな田んぼゆえできたことですが、つい数十年前までは当たり前のように行われていたこと。
今は、除草剤をまけば雑草は抑えられます。日本のほとんどの米づくりでは、この方法です。その米をほとんどの日本人が食べているわけで、特段体に悪いことはないのだと思います。でも、せっかく自分で作るので、できれば無農薬のお米を食したいという思いをのせて作っています。
作業は極めて単純。植えたお米の苗に沿って一歩ずつ前進。植えた苗のまわりの泥をかき回す。これで泥にある雑草の種や芽を攪拌して退治する。同時に、田植え機で植え漏れのあったところや苗の本数の少ないところなどに補植していく。これを黙々と続けるわけです。
作業をしながら、子どもが赤ん坊のころを思い出していました。植えたての苗はまだ十分土に根付いていない。したがって、雑に扱うわけにはいかず、土に根付くように願いながら丁寧にまわりの泥をかき回します。12年前、生まれたての息子を風呂に入れるとき、落とさないように、つぶしてしまわないように、細心の注意を払っていた時のことをなぜか思い出していました。
少しずつ大きくなっていき、やがて青々とした稲に成長し、穂をつけ、収穫に至ります。この成長の過程を見届けていくことは、なんとも楽しいし、嬉しいものです。思い通りにいかないこともあり、トラブルが生じ絶望的にさせられてしまうことも時にはありますが、何とか元気に育ってほしいと思わせてくれるのが子育てと似ているのだと気づかされました。
もちろん、機械に助けてもらう農業においても、同じような感覚を生じるものと思います。ただ、期せずしてすべて人力の除草・補植作業をする中で、より強く思わせてもらう機会となりました。
多くの人たちが安価でおいしいお米を食べられるように、また、農民が農業でしっかり生計を立てられるようにするために、技術の革新、機械化、省力化、化学的手法の採用などは否定すべきではないと思っています。食べる人たちが選択できればいい。
ただ、今回の作業で思ったのは、手作業の、人力の農作業の中には、私たち日本人が大切にすべきものを再確認させてくれる何かがある、ということです。生き物を尊び、それを育んでくれる大地や水に感謝し、理屈抜きで無事の成長を祈る。弱いものを守るが、守るための厳しい淘汰も避けられないこともある。
機械や農薬を使う農業においても感じることは同じだとは思いますが、素足で田んぼに浸かり、泥に触れ、一つ一つの稲苗と向き合うことでその思いは強くなる、そのように特に今回は感じました。
先述したとおり、現実問題として明治時代以前の人力による農業に戻ることはできませんし、することもないと思います。でも、人が自らの力で米を育て、収穫し、食べて生きてきたという歴史の中に、私たちがこれから生きていくために必要な教訓といいますか、忘れてはいけないことが多分に含まれていると思うのです。
実は、来年から、生産者の仲間に声をかけて、みんなで田んぼができないか思案中です。そんな中、ある生産者さんが何気なくこんなことを言ってくれました。「まったく機械を使わない、すべて人力の米づくりをごく一部でもいいからやってみてはどうか」と。
にわかに忙しくなり、来年からできるかどうかはわかりませんが、いずれは必ず田んぼをもう少し広くやりたいと思っています。その時にはぜひ、人力のお米づくりもメニューに加えたいと思います。日本全体でも、人の力が主体の米づくりをごく一部でもいいから残して、子どもたちに伝えていくことが必要ではないでしょうか。
農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)
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