「農の雇用事業」という政策

こさいたろうの視点・論点 0030

2017/12/16

 

 

「農の雇用事業」という政策

 

 

これまで「青年就農給付金」「地域おこし協力隊」という政策を取り上げました。いずれもかなり多額の税金が投入され、ある程度の効果はあるのかもしれませんが、最終的な到達目標がどこに設定されているのか、いろいろ調べても定かではありません。

 

とにかく、一人でも田舎で農業に携わる人が増えればいい、というだけのようにも見えます。そのような政策に巨額の税金が投入され続けていいのでしょうか。いつまでやるのでしょうか。現場に身を置く者として感じるのは、補助金が当たり前の環境になりつつあるということです。

 

つまり、補助金なしでは農業経営が成り立たないような構造になりつつあるように感じています。今回取り上げる「農の雇用事業」という政策も、本来は雇用確保と定着促進のための研修がその主旨ですが、単に支払う賃金の一部を補助するだけになってしまってはいないでしょうか。

 

私は、私自身の体験しか分かりませんが、少なくとも私が実感したのは、「農の雇用事業」という政策は、当該農業生産法人の労働者確保とその賃金負担を抑制するという、農業生産法人への経営支援政策でしかないのではないかということです。

 

この政策では、研修生一人あたり最大で年間120万円の補助金を受給できます。助成期間は最長二年なので、農業生産法人が研修生一人を受け入れれば、240万円の補助金を受け取ることができます。研修生は、いわゆる正社員の雇用契約であることが条件です。

 

私の事例。私は月給額面15万円ボーナスなしで雇用されていました。農業は労働基準法の適用除外項目があるため、休日は週一日のみでした。なので、会社は私に年間180万円の賃金を支出していたことになります。その賃金のうち、120万円の補助を受けていたことになります。

 

そして、二年の受給期間が満了すると、会社は私に満額の賃金を支出しなければならなくなります。仮に、補助金を背負った研修生を単なる労務者として考えるならば、二年経った者は辞めてもらい、新たな研修生を労務者として働かせた方が経営的には得になります。

 

これは現場を実体験した者の肌感覚でしかありませんが、補助金をもたらす研修生期間を終えた者の多くは、その後何となく阻害され、居心地が悪くなり、多くが職場を離れていきました。そして、新たな労務者が研修生として補助金と共にやってくる。

 

さらに言えば、二年間の中身が研修と言えるものだったのか。確かに、全くの農業未経験の者が毎日現場で作業すること自体、研修と言えるかもしれません。ただ、体系的な研修体制がある訳でなく、補助金受給のための報告書も実態を正しく反映しているか疑わしいものがあります。

 

あくまで私の実体験に基づく論評につき、制度の趣旨に基づき、正しく活用している法人もあるのかもしれません。ただ、このような実情があることも考えると、制度が正しく運用されているのか、税金のムダづかいになっていないか、厳しく精査する必要があると感じます。

 

本当に新規就農者を増やすのであれば、その数値目標を明確に示し、本当にやる気のある者を直接応援し、定着を促すような政策を実施すべきです。既存の農業生産法人の経営を助けるだけの政策に多額の税金を投入してもその目的は達成されないと思います。

 

今日本では、巨額の財政赤字が膨らみ続けています。実感はなくとも数字上、経済指標が好転を見せ始めている中で、政権は増税の方向に動き始めています。ただ、増税の前にやるべきことがあるはずです。このような政策を一つずつ点検し、支出を精査すべきです。

 

 

農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)

 

 

 

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“「農の雇用事業」という政策” への1件の返信

  1. 私も雇われる側として、農業に携わっていますがまさにここに書かれているような事が起こりそうな状況におかれています。強く共感しました。
    もちろん従業員のこともしっかり考えて補助金を貰っている農業生産法人もあるとは思いますが、多くが雇う側が得をするだけの補助金という感じに思えます。雇われる側は訳もわからず補助金の対象者として書類だけかかされて、ほとんどメリットもない。重労働、低賃金が当たり前のような環境を改善しないと、いくら農業が好きでもこの先の生活に不安を感じて農業から離れていく人が殆どだと思えます。

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