こさいたろうの視点・論点 0046
2018/04/19
地方議員年金復活は不要
ちょうど私が港区議会議員を辞める頃、地方議員年金はほぼ破綻し、その後廃止されました。全国の地方議員が加入する年金制度でしたが、財源が枯渇したのです。つまり、「財布にお金がなくなってしまった」ということが廃止の大きな理由でした。
地方議員の年金制度は公的年金とは別だての特別な制度で、地方議員は自らの報酬から一定額を掛け金として納め(天引きされ)、議員は退任する際、退職一時金として保険金を受け取るか、三期以上務めた議員については65歳以降に年金として受け取ることも選択できるという仕組みでした。
平均寿命が伸び、年金を受け取る元議員が増える一方で、平成の大合併により地方議員の定数は急速に激減、それに伴って年金財源が枯渇していったと記憶しています。その間、現役議員の掛け金負担を急激に重くし、公費負担分も大幅に増やしたものの、事態は改善されませんでした。
私自身の経験を思い返すと。34歳の時、区長選挙に立候補するため、三期目の途中で区議を辞しました。その際に、退職一時金を受け取りました。かけた保険料総額の7割くらいの金額でした。区長選落選後、再度区議に復帰し一期務めた後も、同じように退職一時金を受け取りました。
ただ、受け取った退職一時金の多くは、前年の収入に応じて納付することとなる多額の地方税や国保料に消えていくことになりました。いずれにしても、掛け金の7割程度しか戻りませんので、年金制度がなければその分を自分で運用した方が有利だったと思います。当時は全くそんなことを考えませんでしたが。
当時、お金の心配がなければ、65歳まで待って、年金を生涯受け取る選択をすれば、大変有利だったものと思います。一般の方から見れば、議員経験者の特権待遇だと思われても仕方ない制度だったと思います。そういう制度だったので、財源がなくなり破綻したともいえると思います。
僕が地方議員時代、議員は職業でないと自分に言い聞かせてきました。労働の対価として給料をもらうのではない、と。与えられた任期、選挙を通じた公約を守り、政策実現に努め、行政を厳しく監視する役割を果たす、この立場を貫くことで報酬を与えて頂くのだ、との思いでした。
したがって、当選させて頂き4年間の任期を務めれば、そこでいったんリセット。次の選挙に出馬し、改めて公約を掲げ、そこで当選させて頂けば、そこから有権者の皆様との新たな契約期間が始まる、そういう思いで活動していました。
つまり、一般の公務員とは、役割も立場も全く異なります。職業として労働時間が決められ、労働することで給料をもらい、そのお金で生活するということではないわけです。職業でないとすれば、特別の年金制度が存在することそのものに、私は違和感を感じていました。
しかも、今や国民皆年金制度となっており、地方議員であっても一国民として基礎年金加入者です。さらにいえば、一般公務員と違い、地方議員は兼業可能です。議員報酬を受け取りつつ、他の仕事もできます。不動産屋の社長や薬局のオヤジも地方議員をしていました。
兼業している地方議員は、厚生年金に加入している場合もあるわけです。兼業していない議員でも、各自の判断で公的年金の上乗せ、確定拠出年金の加入なども可能です。議員報酬から天引きして、税金を上乗せして運営する特別な年金制度は全く不要ではないでしょうか。
国政では与党である自民党・公明党が、「地方議員のなり手がいなくなる」ことを理由に、地方議員年金制度の復活を目論んでいると聞きます。全くピントが外れていると厳しく指弾せざるを得ません。なり手がいないから特権待遇を復活させるなんて、誰が納得するでしょうか。
仮に、特権的待遇を目当てに人材が集まったとしても(集まらないと思いますが)、そういう人が地方議員として本当にふさわしい人材と言えるのでしょうか。市井で汗水流して生きる人々と同じ目線で活動できる人材が集まって初めて、議会は機能するはずです。
少し前、「地方議員はおいしい就職先」というような書籍が売られていました。私は非常に苦々しく感じておりました。そんな思いで議会に来る人材にろくな人はいないと知っていたからです。地方議員年金制度の復活、特権的待遇を与えることで、こういうおかしな風潮にお墨付きを与えてしまうことを危惧します。
議会の役割を理解し、その役割をしっかりと果せる人材を、主権者が選挙によって選出するという全うな仕組みを機能させる。当たり前ですが、現実として難しいこのことを不断に追求していく、粘り強く取り組んでいくことが、今求められていると思っています。
その意味からも、議員を「おいしい職業」と曲解させてしまうような地方議員年金制度の復活に、私は断固反対なのです。
※ 参考資料:《制度の廃止を決断せよ》地方議員年金について https://wp.me/p8PEo8-lf 〈小斉太郎2009/11/13執筆〉
農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)
※ 今の社会や政治に対して思うことを書き、発信する活動「こさいたろうの視点・論点」を始めています。
※ 現在、数十人の皆様にご購読料(発行協力費)を頂いております関係から、公式サイトには原則冒頭部分のみ掲載させて頂きます。誠に恐縮に存じますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
※ ただし、時勢や内容等によっては全文公開する場合がありますこと、ご購読者の皆様にはご了解賜りたく存じます。
※ ご購読下さる方は、こさい宛てご連絡ください。月額500円(一口)をお願いしております。電子メールにて全文お送り致します。
※ 政治の現場を離れて4年、内容的に皆様にご納得頂けるものが書けるか、いささか不安ではありますが、これまでの自らの政治活動を思い返しながら、頑張ります。また、いずれ、ご購読者の皆様に見える形の双方向のやり取りができるようなオンラインサロンのようなものの立ち上げも考えています。