こさいたろうの視点・論点 0100
2019/06/13
前を向いて生きていくということ
想像すらできない悲惨な事件が後を絶ちません。50年近く生きてきた過去を思い返すと、時折、人の所業とは思えないような殺人事件が起きてしまいます。51歳の男が引き起こした川崎の無差別殺傷事件では、何の罪もない少女と保護者の方が犠牲になりました。
そして、この事件も遠因となり、今度は練馬で、父が44歳の息子を殺すという事件が起きました。川崎の事件を見て、同じように何の罪もない子どもを息子が殺してしまうかもしれないと、メッタ刺しにしたそうです。
この二つの事件に共通するのは、引きこもり状態にある中年男性が関わる事件だということです。そして、自分と同じような年代の男性ということになります。
殺人を犯した51歳の男を許すことはもちろんできませんし、父に殺された44歳の男も親に暴力をふるい続けていたようで、もし事実ならそれも許されることではありません。ただ、誤解を恐れず言えば、この男たちの心情の一端、少しだけわかってしまうような気がするのです。
思い通りいかない人生、いろいろやっては来たけれど、年齢を重ねてしまい、体力低下も肌で感じるようになり、老化も始まり、再挑戦への意欲も減退していく…。これはまさに、今の私自身が時折感じてしまう、偽らざる心境。彼らの心の中にも、私と同じような心境があったのではないか、と思ってしまうのです。
くり返しになりますが、やったことは絶対にダメです、許されません。引きこもりを続けることだって、私はいいとは思えません。ただ、どうしようもない思い、そういうものはあったんじゃないか、そう思うのです。
うまくいかぬ原因や理由を、自らの生まれ素性や親の育て方など、自分以外の何かに押し付けてしまう。恥ずかしいことですが、時にそんなことを考えてしまう自分がいます。言い訳をすれば、僕の場合は、「いやすべては自らの行いの結果である」と思い返してはいますが。今回の事件の二人の報道に接し、残念ながら似たような部分を持っているのではないかと考えています。もちろん、人を殺そうとか自分が死のうとかは決して思いませんが。
一方で、この二人と私の大きな違いは、私は引きこもることができないということだと思っています。これも正直に心情を吐露すると、引きこもっちゃいたいなー、と思うことはあります。でも、それでは生きていけないし、何より息子を育てることができません。明日の飯が食えなくなるまで、何とか考えて、何とか働き続けねばならないのです。それは当たり前のことなんだということ、本当に分かったのは本当に苦しくなった最近のような気がします。
私は25歳で港区議会議員に当選させてもらいました。もちろん自分でも頑張りました。ただ、実家で生活して家賃も飯の心配もなし、資金のも多くも父親が工面してくれ、知己の多い父親の力を相当借りての当選でした。その後の政治活動も、妻の両親である義父母に物心両面で多大な後援をもらうことで続けることができました。今もその遺産を食い潰して生きているとも言えます。引きこもってはいませんが、もたれ掛かって生きてきてしまいました。そういう意味では、中年になっても親にもたれかかっていると思われる引きこもりの人々と同根のところがあるのではないか、今、そんなふうに感じています。
私は今、息子が私のそばにいてくれることに感謝しています。とにかく、自分の歩んできた道を後悔したり、苦悩を続けたりしている暇はなく、何とか息子が育ち、自立し、社会に巣立っていくまで頑張るしかない、という環境を与えてくれています。彼が、自分の足で生きていけるように送りだしてやりたい、というのが唯一最大の望みです。私が親にしてもらったようなことは、私は彼にしてやれないから。そして、今思うのはむしろ、私がしてもらったようにしてはならないと思うに至っているのです。自分で道を切り拓ける人になってほしい。そう思っています。
本年3月の内閣府の調査によると、40-64歳の引きこもりは、推定61.3万人だということです。そのうちの70%が男性だそうです。私と同世代と言えます。これから人生の後半を迎える人たちです。考えねばならない日本社会の課題の一つであることに間違いありません。これからの日本は、このような人たちをどのように社会で包摂すべきか、という方向で解決策を模索する社会を目指すべきではないかと思っています。
農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)
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