こさいたろうの視点・論点 0103
2019/07/08
「年金2000万円不足」問題から考えたこと
不足するのは誰か。
今回問題になったのは、『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』。その資料によると、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿とある。その姿は、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯、とある。夫婦の実収入は209,198円、実支出は263,718円と想定されている。したがって、毎月の不足額は約50,000円、30年続けると2000万円不足するということが記載されている。
ちなみに、収入はほぼすべてが夫婦の年金収入となっていて、支出の中には住居の家賃またはローン支払い等は入っていない。
素朴な感想。
この資料の前提である「高齢夫婦無職世帯」って、日本の高齢者全体のどのくらいの割合いるのだろうか。昔の統計の前提だった「夫婦と子ども二人のモデル世帯」って、もはやマジョリティーとは言えないはず。家を所有している人が当たり前の社会なのか。個人事業主や農業従事者など基礎年金のみ受給者は、これにならうともっと膨大に不足するはず。そういう人って、日本にはごく一部しかいないの。
たしかに、金融庁の「高齢者の資産形成・管理」についての審議会の、さらにワーキンググループの報告書なので、資産を持たない、持てない高齢者のことはそもそも度外視されているのかもしれない。でも、地方行政も含めた日本の行政機関の本質は表していると思う。
役人の方々は、国民や住民を語る時、どうしても自分たちが基準になる。これは非難はできない部分もある。人間なので。でも、公務員は国民の中でも特に安定的であり、特に将来にわたっての生活保障が手厚いと言っていい。大企業のサラリーマンもほぼ同様のことが言えるかもしれない。私が地方自治体の中で仕事をしていた際、気になっていたことの一つで、そのような視点を正し、国民が多様であることを伝えていくのが政治の役割の一つなのだと思っていた。
なので、「高齢夫婦無職世帯」だけを切り取ってなされる報告書など、単に参考資料でしかないと私は思う。このワーキンググループの参加者の一部には「オールジャパンで作った」などという声もあるようだが、そんなことあるはずがない。厳しい生活をしている高齢者、自らの加齢に不安を抱える高齢者予備軍、どれだけいるのだろうか。政治は、そちらに目を向けるべきだ。誤解を恐れずに言えば、出典資料の表には「教養娯楽」と「その他の消費支出」8万円近く計上されており、そこを節約すれば十分やっていける。私が間違えているだろうか。
問題が表面化してから、野党は「政府はうそを言っていた」と攻め、与党は参院選を気にして「資料はなくなった」とか「受け取らない」とか。永田町は騒がしかった。でも、国民サイドは比較的冷静だったように見えた。そもそも年金だけでは老後を賄えない、っていうのは多くの人がうすうす感じていたし、制度としても持続させるために何とかしなきゃ、っていうのも実現可能性はともかく、多くの人が思っていたことがよく分かった。永田町の面々の自己保身ともいえる争いだけが浮き彫りになった、と私は見る。これで争いが起きることそのものが、政治の劣化ではないか。
自分自身で老後に備え、準備できる人は、資産運用も含めてやってもらえばいいのだと思います。でも、一方で、今の制度では、老後を迎えるのに極度の不安を抱える人たちが増えていく。政治は、そちらに目を向けるべきだ。
基礎年金制度、健康保険制度と介護保険制度、そして、どうしても立ち行かない場合の最後の砦・生活保護制度、これらの制度を根本的に見直し、制度の再編をすべき。その際、制度を複雑に絡み合わせて分かりにくくすることはあってはならない。役人の数も投入する税金も、たくさん要することになってしまうので。私は、国民みんながぎりぎり安心して生活できるようにするには、給付付き税額控除制度を入り口に、ベーシックインカムという全国民への最低限所得保障制度を導入すべきなのではないかと考えている。また改めて私見を論じたい。
農夫 こさいたろう(小斉太郎;元 港区議会議員)
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